ストームの翌朝の表面雪。
表面40cmの雪は大まかに3つの層から成っていた。
表面の層は新雪からしまり雪になりかけ。
以前からあった雪と,ストームで新たに降った雪がごちゃ混ぜになったような印象。
その下に,結晶の粒が大きい,光をよく通す層があった。
写真,一番下の層は上と比べてはっきり固い層。
アラスカ大フェアバンクス校のBenson教授のリクエストがあり,水の安定同位対比測定用のサンプルをとった。
Benson教授は一つのストームの中で降雪の同位対比がどのように変わるか,に興味がある。
今回のストームに限って言えば降雪は少なく,表面積雪のほとんどが風上方向の雪が地吹雪で舞い上がった後,堆積したものだ。
あまり良いサンプルではない。
これは山岳地域での研究の難しさだ。
さて,今日の私の仕事はそのBenson教授とDanが四半世紀近い昔,1982年に雪氷コアを掘削した地点で再びコアを掘ることだ。
Bensonさん等のサイトは私たちの最新の掘削地点よりも北西側に1.6km行ったところにある。
Bensonさん等の雪氷コアによると,1950年代から1980年代前半では,1年間の雪の堆積量(涵養量)は水の量に換算して約0.9m。
私たちの最近の結果では1990年代前半から現在,1年間に積もる量は2.5mと3倍近い量になっている。
これは,ランゲル山のミステリーの一つ。
この違いについては2つの可能性が考えられる。
■積もる雪の量が突然増えた
■掘った場所による違い
1982年の掘削地点の方が卓越風向[もっとも吹く可能性の高い風向]の風上側にあるので,一度積もった雪が吹き飛ばされてしまって風下側に積もることは十分考えられる。
そこで,現在1982年の掘削地点と最新の掘削地点でどのくらい積もる量に差があるのか,調べることにしたのだ。
テントの前でコア掘削作業に必要な物を整理。
ドリル,その他必要なものをアシスタントのAndy,Frankに手伝ってもらい,運び出した。
雪氷コアの掘削風景。
後ろに見えているのがランゲル山頂。
ちなみに1982年の掘削風景はこちら。
[写真:Carl Benson/Dan Solie]
場所は地図から読み取り,GPSを使って同定した。
だいたい同じ場所で掘れたはず。
2~3年分に相当する,約14mの雪氷コアを掘削した。
この地点で掘った雪氷コアについては密度を測定,融解等による氷板や粗大粒子の層の深さを記録した後,その場で削ってボトルに詰めてしまった。
ボトル詰め作業をするAndy。
ランゲル山ではおおよそ毎年,夏場に~数ミリ厚の氷板が出来る。
1982年コアサイトで掘った雪氷コアでは,最新の山頂カルデラ中央の掘削地点(積雪深観測タワー/今夏のキャンプ地点)よりも浅いところで前年,一昨年の氷板が出てきた。
ということは,風上にある1982年サイトの方が堆積量が少ない。
その量はカルデラ中央部のおおよそ70%。
これだけでは1982年の雪氷コアと,最新の雪氷コア(2003/2004年)の涵養量の3倍近い違いは説明出来ないから,確かにどこかで涵養量が大きく変わったのだ。