昨日の夕方からの晴れは,朝起きると吹雪に変わっていた。
ルートの偵察が出来たので昨日の午前中と同程度の視界があれば行く気だったが,風が前日よりも強い。
やむなくキャンプ2(3750m)での停滞決定。
停滞中はお腹が減る。
登っている間はさして気にならないのだけれど,じっとしていると空腹が気になって仕方がない。
お楽しみな食べ物のほとんどは重いので直接山頂に運んでもらった。
今持っている中ではとっておきのビーフジャーキーに手を出した。
短波ラジオを聞きつつ好天を待った。
あせりはあるが,天気はどうにも出来ない。
外国でラジオ深夜便を聴くと,すごく落ち着く。
断片的なニュースの組み合わせから,サッカー,ワールドカップ,クロアチア戦は引き分けだったこと,決勝トーナメント進出には最低でもブラジルに2点差をつけて勝たなければならないことを知った。
***
夕方,また前日と同じように晴れた!
スキーには吹雪でしっかりエビのしっぽが発達していた。
Danちゃん,昨日と同じパターンだからしばらく天気は持つはず,とのたまう。
そりゃ天気が持つというヨミの根拠としては薄いよー。
でも調査地である山頂カルデラ(4100m)へ行こう,という意見は一致。
急いで準備をして出発した。
視界は500mほど。先行したAndyとFrankはほどなくして見えなくなった。
Danちゃん,荷物が重く,しょっちゅう立ち止まる。
ロープを結んでいる私も止まらなければいけないんだけれど,風が強くて寒い。
気温は-15ないし20℃といったところ。
正直,止まっていられない。
だんだん体が冷えてきつくなってきた。
これは低体温症になりかねない。
もう一枚,防寒着を持っているけれども,それを着るために立ち止まって外に来ているジャンバーを脱ぐのが寒すぎる。
上から羽織れる羽毛服は山頂カルデラに送ってしまった。
快足を保つために軽量化し薄着で来たのが裏目に出てしまった。
テントを持って動いているので,最悪の場合,きつければその場でテントを張って風を避け,暖をとればよい。
そう考えてそのまま歩を進めた。
低体温症になると,呂律がまわらなくなる。そこで,まだ大丈夫なことを自分で確認するために,色々叫びながら歩いた。
フェアバンクスを出る前に見たアニメの台詞が頭をめぐる。
「本物のノノリリはっ 心にバスターマシンを持っているのだからっ!」
努力と根性があっても低体温症にはなるよなあ。
実はこの行動自体が低体温症の症状だったのかもしれない。
だんだんと体がやばくなってきた。ぬるくなった白湯を飲み干して一時しのぎ。
残る対策は風があたらないところ=テントを建てて暖をとるしかないが,キャンプ地までもうちょっとなので引っ張りに入る。
やっと山頂カルデラだ!
カルデラにエントリーする写真をどうしても撮りたくて,寒くて震える手で,何とかカメラを構えた。
21:30,ようやく調査キャンプ(4100m)着。
4時間弱,ほとんど休憩なしの行動だった。
Paulが飛行機で私たちのリクエスト通りの場所に荷物を運んでくれていた。
ほっと一安心。
変なところに降ろされると移動がものすごく大変なのだ。
私の体は低体温症になる3歩手前。
正直,ちょっと引っ張りすぎた。ヒヤリハット事例だ。
高所にまだ順応しきっていない間は,循環器系の働きが弱く,普段と同じようには動けないし体も温まらない。
もう少し防寒対策に気をつけなければならなかった。
急ぎ,積まれた荷物の山から羽毛服を引っ張りだした。
AndyとFrankが先に建てていたテントにあがらせてもらい,温かくして休憩。
きつかった。
この日はSummer Solstice(夏至)。
それにあわせるかのように,夜中まで行動することになった。
Happy Summer Solstice!
ともあれ調査地にたどりつくことが出来た。
入山日も入れて,ここまで5日間。
ようやく明日,仕事をはじめられる。
ほっとして,友人の声を聞きたくなった。
日本へ衛星電話で連絡を試みたが誰も捕まらなかった。