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2006,06,26, Monday
Danから夕方まで発電機使っていいよーとのお達し。
小雪が降る中,タワー根元のデータ記録装置(データロガー)回収のため孔掘りを再開。 今日で一気に片をつける! Frankと二人で作業再開。 [写真:Dan Solie] 私がチェーンソーをふるって雪のブロックを切り出し,Frankが外へどんどんと運び出す。 やべっ。 チェーンソーに指を巻き込みかけて手袋の小指の先が飛んだ。 ブロックの切り出し時は通常のチェーンソーの使用と違って,斜面下から上へ,あるいは水平方向に切り込みを入れる。 効率的に切るために,チェーンソーの持ち手を逆さに握っていたため,通常は来ない位置に指が行ってしまったのだ。 一瞬,顔面蒼白。 が,何事もなかったかのように作業を続行。 *** ホントはここで作業を一度中止すべきだった。 今思えば,チェーンソーを使えるのは夕方まで,という時間制限で少しあせっていた。 さらに,高所でのハードな作業で身体はクタクタ。 思考能力も低下していたと思う。 他人に頼んだ仕事でヒヤリハット事例があったり,疲れが見えたりしたら絶対に作業止めるが,自分がやる分については引っ張ってしまう。 Safety Firstであるべき作業での失態だった。 もし本当にあそこで指を飛ばしていたら・・・多分,調査はそれで終わりにし,下山を考えたはず。 安全第一で守られるのは各人の安全だけではないのだ。 *** ブロックの運び出し,Andyも手伝ってくれた。 [写真:Dan Solie] そして,ついに。 データロガーをいれた断熱箱が出てきた! 1年ぶりの再会。 電池は持ってくれただろうか。 まず,電池の電圧を測定。うん,大丈夫。 *** 実は電池の持ちが一番心配だった。 なぜならば,電池選びの基準となるデータロガーの消費電力の計算を業者にお願いしてしまったからだ。 さんざん,酷寒である環境を説明し,1年間の稼動のために十分な安全率をとるよう念押しはした。 だが,業者さんが電池を選んで持ってきてくれたとき,その計算内容をちゃんと確認していなかったのだ。 肝心な部分は人任せではなく必ず自分で確認すること。 もし自分できちんと確認していれば,無用に心配することはなかった。 *** 一悶着はあったのだが,1年間データが取れていたことを確認,ノートパソコンにデータをダウンロードし,一安心。 よかった。 ふと思いたって自分の顔を写真に撮ってみた。 こけた頬。汚いひげ。日焼けでぼろぼろの肌。軽度の帯状発疹も出てる。 ひどい面だった。 Danも喜んでくれた。Danはこう言ってくれた。 「まずケガがなくてよかった。実はモリキンが作業中に疲れて見えたら作業を止めさせるよう,Frankに言っておいたんだ。ずいぶんと疲れがたまっているようだったから。」 Danは半人前の私をちゃんと見てくれていた。 ・・・実はへとへとの中,作業を強行して指をチェーンソーで飛ばすところだった,とは告白出来なかった。 #ごめんなさい。下山後,このブログを書いている今も,まだ話していません。 多分,Frankも結構へとへとだったと思う。二人してただ黙々と作業を続けていた。 冗談の一つも出てこないのが疲れている証拠だったんだよなあ。 掘り出し終えた頃から雪と風が強まった。 吹雪の様相。 ちょうどよいタイミングだった。吹雪の前にロガーが回収出来て,よかった。 いくらシートで覆っても,吹雪が来たらある程度は掘った孔が埋められてしまうから。 |
2006,06,25, Sunday
朝から2本目の雪氷コア掘削に全力を注いだ。
Frankが相変わらず鬼のような働きっぷり。 良質なコアを,リクエスト通りの長さで掘り出してくれる。 しかも働き出したら休憩まで止まらない。 一回のコアリングでは出来るだけ長いコアを取った方が効率はよい。 けれども,コアの長さは輸送に使うクーラーボックスに収まる長さでなければならない。 Frankの数センチ単位の長さコントロールが素晴らしかった。 *** ふと掘削場から上を見上げると,屋根がけした木材とシートの隙間からハロが見えた。 #ハロについては天空博物館さんの解説が詳しい。 コアの掘削が終わった時点でFrankはお役御免。 夕食後の再作業を覚悟していたのだが,夕方,夕食の時間前に終わってしまった。 止まらないマシン,Frankのおかげだ。 夕食を作ってもらうようFrankに頼み,私は掘ったコアの整理。 そして,夕食の時間。 Frank製,なんちゃらチキンスペシャル。 感嘆ものの旨さだった。 我々に遅れること2時間,ようやく仕事を切り上げてきたDanも感激。 冷え切った身体には肉がうれしい。 中から身体があったまる。 |
2006,06,24, Saturday
チェーンソーを使うためには発電機を動かす必要がある。
しかし,発電機はDanの電磁場観測に影響を及ぼす。 この日はDanとの兼ね合いもあり,発電機を使わずに雪氷コアの掘削。 今回は大規模な掘削は行わず,ドリルは手回し式なので問題なし。 欲しいコアは,去年からの1年間の積雪をカバーするコアと,その前の年,3年分をカバーするコア。 1本目のコアは最低深さ7mまで,2本目のコアは深さ22mまで掘る必要あり。 持ってきたドリルで掘れるコアは19mまでなので,2本目は少なくとも3m掘り下げた後に,掘りはじめなければならない。 掘り出したコアを処理している間に直接日があたって融けてしまうのがイヤなので,掘削準備をしている間,アシスタントの二人に日陰を作ってもらった。 気温は氷点下でも,日があたるとすぐにあたたかくなるのだ。 また,ドリルが日なたであたたまると付着した雪や氷が融ける。 そのドリルを掘削孔に下ろすと,中は冷たいので掘ったコアもろとも氷ついてしまい,コアの取り出しに苦労するはめになる。 ちょっとのことだけれど,とても重要。 日除けを作ってもらった1本目のコアの掘削場。 こういう作業,今回のアシスタントはすごく慣れている。 ちょっと風が強く,意外と面倒な仕事だったのだが,その場でいろいろ工夫して充分な日除けを作ってくれた。 私は「日陰を作って」の指示だけで済み,大助かり。 そんなアシスタント等の昼食風景。 ポテトチップやクラッカー,パン,ピーナッツバター,手軽に食べられるもので済ます。 水分だけはたっぷり摂る。 2本目のコアはタワーを掘っているトレンチ内での掘削。 掘削場を整えた上でしばし休憩するアシスタントのFrank。 結局時間切れで全部は掘削しきれず,残りは明日へ。 [撮影:Dan Solie] この日は私が料理。良い気分転換にもなる。 フェアバンクスで見つけたきしめんと,野菜炒めを作った。 ガチガチに凍った野菜を手っ取り早く溶かして食べられるようにするには圧力鍋が一番。 ちょっと水を入れて調理。 きしめんも圧力鍋でゆでた。気圧が低いので普通の鍋では温度が充分高くなる前に沸騰してしまうのだ。 足元にお醤油あるの,わかるかな? 日本人のこだわり。 *** 正直,朝から体調が悪く,きつい1日だった。 忙しくてみんな料理にも手が回らない。 ↓ クラッカーやクッキー等乾物中心の食事 ↓ あまり食べられない,体調悪化 の悪循環に入りかけていた。 自分で作って,がっつり食べて,切れかけていた気持ちとパワーをつないだ。 短期の勝負だからこそ,食事や睡眠等,足元はしっかり整えなければいけない。 私がコケたら,替わりはいない。 気持ちばっかりが急いて,大事なことがおろそかになっていた。 休むのも,食べるのも,フィールド調査では大事な仕事なのだ。 |
2006,06,23, Friday
前日,倒れないでいてくれた積雪深観測タワーを無事発見出来た興奮からか,朝早くに目が覚めた。
朝5時,気温は-23.7℃。 思い立って日本の友人に電話。 きっといい仕事が出来る。 その興奮を伝えたかった。 *** さて,本格的な孔掘りのはじまり。 タワーの底のデータロガーは足下6.5mの深さにある。 ランゲル山では積もった雪はほとんど融けない。 深いところにある雪は,上に積もった雪の重みでどんどん押し固められていく。 2mも掘ると,カチカチでスコップでは歯が立たなくなってくる。 そこで使うのが,チェーンソー。 電動チェーンソーを持ち込んだ。 固くなってからは雪をブロック状に切り出していく。 そして搬出路からそりでひっぱりあげてもらう。 深くなるに連れて,雪はどんどん固くなるし,搬出路も拡張しなければならない。 表面で1m掘るのと,3mまで掘り進んでからの1mでは掘るのでは大違い。 掘れば掘るほど大変になっていく。 フィールドアシスタントのFrankが鬼のような働きっぷり。 私が息を切らせながら切り出したブロックを,あっという間に上に運び上げてしまう。 標高4000m上がりたてで,低所と変わらない運動量を見せてくれた。 信じられない男だ。 Andyは彼のことをDigging Machineと呼んでいた。 言いえて妙。 ちなみに,雪氷学では,積もって1年間経っていないものを雪,1年以上経過したものをフィルンと呼ぶ。 フィルン(あるいは雪)の通気性がなくなるとようやく氷になる。 今回掘ったのは積もってまだ1年間経っていないので雪である。 |