大きく言うと,私は雪氷コアから過去の気候,環境の歴史を紐解き,その変動の仕組みを調べている。
2003年から2005年にかけて,私たちのチームは既にランゲル山で雪氷コア掘削を行った。特に2004年には216m深に及ぶコアを掘削した。
今夏の仕事は
いつ,どんな雪が降り積もったのか,特にこの1年間について詳しく調べ,既に掘った雪氷コアの解釈に役立てることにある。
雪氷コアを調べても,その年代はすぐにはわからない。
一番はっきり出てくるのは様々な”年輪”に相当するもの)だ。
水の安定同位体比,陸を起源とする化学成分,海を起源とする化学成分,雪の密度等々,色んな雪の性質がおおよそ1年周期で変化する。
その年輪の数を数えていくと,どの深さの雪が何年前のものかわかる。
だけれど,1年より短い期間で”いつ”を知るのは難しい。
いつ,どんな性質の雪が積もるのか,は地域によって大きく異なり,一概なことは言えない。
そして,この1年以内の情報がとても大事なのだ。
例えば,ある年,気温が高い時に出来る雪がたくさんみつかったとする。それはその年,気温が高かったという証拠かも知れない。あるいは,いつもの年より温かい季節に降った雪が多かったのかもしれない。
詳しく”いつ”がわかれば詳しく何が起こったかがわかる。
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今夏の私の担当した仕事は,主に4つ。
1.2005年に設置した積雪深観測タワーからデータを回収すること
2.この1年間に積もった雪を,雪氷コアとして採取すること
→タワーから”いつ”雪が積もったかを調べ,コアから”どんな”雪が積もったかを調べる。
3.前3年間に掘った雪氷コアと重なる雪氷コアを採取すること
→以前積もった雪がどのように変化したかを調べる。
4.1982年にアラスカ大のCarl Benson教授等が雪氷コアを掘ったサイトで雪氷コアを採取すること
→1982年にコアを掘った場所は,私たちの掘削地点から1km以上離れている。過去のデータと現在のデータを比べるため,”現在の”1982年コアサイトの雪を調べる。
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写真は2005年,昨夏設置時の積雪観測タワー。高さが5mある。
ランゲル山は毎年7−8m前後の雪が積もり,それがほとんど融けない。
(年平均気温は約−19℃)
ということは,昨年設置したタワーはおそらく全部雪に埋まり,さらにその上に2−3mの雪が積もっていると推測される。
目指すデータの記録装置はタワーの根元,数メートルの雪の下。
要するに,主な仕事は穴掘り。